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中華昇圧モジュール(MT3608)でLEDが点滅する原因と対策

·3664 文字·8 分 電源・アナログ回路
目次

MT3608 を使った DC-DC ブーストコンバータは、直流 2〜24 V 入力を 5〜28 V/最大 2 A に変換できる汎用昇圧モジュールで、Amazon や AliExpress で安価に入手できるため試作によく使われる。ただし、電子回路の経験が浅い担当者が設計した基板は回路図は実機が一致しないことがある。「5 V から 12 V に昇圧したモジュールの出力に G4 LED 電球を繋いだら、スイッチをON にするたびに点滅する。AC アダプタを変えると点滅しないものもある」という症状が出た場合、この記事の切り分けが参考になるかもしれない。原因は回路図と実機でスイッチ位置が異なることに起因する突入電流で、NTC サーミスタの追加で解消できた。

MT3608 昇圧モジュールを実装した基板。帯電防止マットの上に置かれ、オシロスコープのプローブが接続された状態

症状の再現と観測
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測定環境
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測定に使用した機材と構成を記す。

  • 電源 — USB Type-C 給電(基板内で MT3608 モジュールの入力端子に接続)
  • 負荷 — G4 口金 12 V LED 電球(2 W、ハロゲン 20 W 相当)
  • オシロスコープ — Keysight DSOX1204G
  • マルチメーター — CD771
  • MT3608 昇圧モジュール — DC 2〜24 V 入力、5〜28 V/2 A 出力の汎用ブーストコンバータ。ピンヘッダで出力電圧を調整するタイプ。同等品が複数ブランドから Amazon や AliExpress で販売されている

本件は他社が設計した基板の不具合調査として外部から持ち込まれた案件だ。同一設計の複数台すべてで同じ症状が再現していた。

AC アダプタごとの挙動
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複数の AC アダプタで試したところ、挙動は 2 グループに分かれた。

下の波形は 5 V 入力側(CH1:黄)と 12 V 出力側(CH2:緑)をオシロスコープで同時に観測したものだ。時間軸は 500 ms/div。スイッチ OFF 時は黄 = 5 V、緑 = 0 V の状態から始まっている。

スイッチ ON 後に 12 V 出力が周期的に点滅し続けているオシロ波形(500 ms/div)

スイッチを ON にした後、緑(12 V 出力)が繰り返しドロップして 0 V 付近に戻っている。黄(5 V 入力)も連動して振動している。これが点滅の実体だ。

一方、正常点灯する AC アダプタでは、スイッチ ON 後に電圧が安定して維持される。

スイッチ ON 後に 5 V 入力と 12 V 出力がともに安定しているオシロ波形(500 ms/div)

こちらは黄が 5 V から若干降下するが振動せず安定しており、緑は約 10.4 V で点灯を維持している。ただし、12 V を出力するモジュールであるため正常とはいえない。同じ負荷・同じモジュールで AC アダプタによって症状が変わることから、電源の負荷応答能力(内部インピーダンス)の違いが関係していると推測した。

スイッチ ON 直後の詳細波形
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5 ms/div に拡大すると、点滅が起きる AC アダプタの起動直後の様子が分かる。

スイッチ ON 直後に 5 V 入力が数回振動し、12 V 出力が急峻なパルスを繰り返しているオシロ波形(5 ms/div)

スイッチ ON 直後から 12 V 出力が急峻に立ち上がり、すぐに崩れるパルスを繰り返している。5 V 入力も連動して振動しており、AC アダプタが過渡的な負荷変動に追従できていないことが波形から読み取れる。

原因の特定
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仮説の整理と棄却
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症状の原因として次の仮説を立て、順に検証した。

仮説検証判定
過負荷安定化電源で負荷電流を実測。仕様内で駆動できる除外
負荷側の突入電流コンデンサ並列・RC 遅延を追加したが点滅は変わらず除外
部品不良・実装不良複数台すべてで同症状除外
AC アダプタの負荷応答不足アダプタ依存で症状が変わる有力

切り分けの途中で、昇圧モジュールの出力側と LED の間に別の LED ドライバモジュールを追加したところ点滅が解消した。ただしオシロで見ると 12 V 出力電圧がわずかに低下していた。この結果から、点滅の原因は突入電流にあり、昇圧モジュール自体の出力能力の問題ではないと絞り込めた。

続いて回路をトレースしたところ、提供された回路図と実機の回路に明確な相違が見つかった。

回路図と実機の食い違い
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下の図は回路図と実機でスイッチ位置がどこにあるかを比較したものだ。

設計図ではスイッチが昇圧モジュールの入力側(一次側)にあり、実機では出力側(二次側)にある比較図

回路図ではスイッチが昇圧モジュールの一次側(5 V 入力側)にある。スイッチ OFF で昇圧モジュール全体が止まる設計だ。

実機を確認すると、スイッチは二次側(12 V 出力側)にあった。つまり USB ケーブルが接続されている限り、スイッチの ON/OFF に関わらず昇圧モジュールは常時 12 V を出力し続けている。

この時点で提供された回路図は参照価値を失った。以降の解析は実機トレースのみを根拠とした。

突入電流と低電圧保護なしが生む点滅ループ
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スイッチ位置の誤りが、なぜ点滅を引き起こすのか。下のシーケンス図で整理する。

スイッチ ON から消灯・点灯が繰り返されるループを示したシーケンス図

スイッチを ON にすると、常時 12 V が出ていた二次側に突然 LED 負荷がつながる。LED は点灯直後に定常電流より大きい突入電流を引く。

昇圧回路ではエネルギー保存則から、出力電流より入力電流のほうが大きくなる。5 V→12 V 変換では、12 V 側に流れる電流の 12÷5 = 2.4 倍以上の電流が 5 V 入力側に流れる(変換効率分さらに増える)。LED の突入電流がそのまま AC アダプタに流れ込むのではなく、2 倍以上に増幅されて押し寄せる形になる。

内部インピーダンスの高い AC アダプタではこの急激な電流増加に追従できず、5 V 入力が急降下する。AC アダプタ自体には低電圧・過電流の保護回路が備わっていることが多いが、それが動作する前に MT3608 モジュール側の問題が顕在化する。

問題の本質は、MT3608 モジュールが UVLO(低入力電圧保護、Undervoltage Lockout)を持っているが、閾値が固定値の 1.98 V (Max) となっていることにある。可変 UVLO を備えた昇圧モジュールであれば、入力電圧の閾値を調整し、ACアダプタの電圧が下がったときに出力を停止させることができた。電圧回復後はソフトスタートで再起動するため AC アダプタへの過大な負荷を繰り返さない。しかしこのモジュールは入力電圧が低下しても出力を維持しようとし、一次側からさらに大電流を引き続ける。5 V がさらに落ち、12 V 出力も崩れて LED が消灯する。

LED が消灯すると負荷電流がゼロになり、AC アダプタが 5 V に回復する。すると 12 V も復帰して LED が再び点灯し、突入電流が走ってまた消灯する。この繰り返しが点滅の正体だ。

逆に考えると、正常点灯できる AC アダプタは内部インピーダンスが低く、突入電流の瞬間でも 5 V を維持できたということだ。

NTC サーミスタによる対策と一般化
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NTC サーミスタの特性
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NTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスタは、温度が上昇すると抵抗値が下がる部品だ。

NTC サーミスタの抵抗-温度特性。常温で高抵抗、自己加熱後は低抵抗になる概念図

常温では数 Ω 〜数十 Ω の抵抗値を持つ。スイッチ ON 後に電流が流れると自己発熱し、温度が上昇するにつれて抵抗値が急速に低下する。定常点灯状態では十分に温まり、電圧降下はほぼ無視できる。

暫定対策の回路と検証
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NTC サーミスタを二次側スイッチと LED の間に直列挿入した。スイッチ ON 直後の突入電流をサーミスタの初期抵抗で制限し、一次側への電流変化を緩やかにするのが狙いだ。

NIC 10D-9 NTC サーミスタを MT3608 モジュール(HW-045)の VOUT+ 端子と LED の間に直列挿入した状態

対策後の起動波形(5 ms/div)を対策前と比べる。

対策後はスイッチ ON 後の 12 V 出力が RC 的な滑らかなカーブで立ち上がり、5 V 入力のリップルも大幅に減少しているオシロ波形(5 ms/div)

暫定対策であるため綺麗な波形になったとは言えないが、対策前は鋭い突入電流パルスを繰り返していたのが、対策後は 12 V 出力が (寛大な気持ちで見ると) RC 回路のような滑らかなカーブで立ち上がっている。5 V 入力のリップルも小さくなった。この変化が NTC によるソフトスタートの効果だ。

対策後の出力電圧は 12.4 V と、対策前の 10.4 V から改善している。これは 5 V 入力の安定化により MT3608 が設計どおりの昇圧比を実現できた結果だ。

500 ms/div での長時間挙動も確認した。

対策後・点滅していた AC アダプタで安定して点灯しており、5 V 入力と 12 V 出力ともに振動がないオシロ波形(500 ms/div)

スイッチ ON 後に 5 V も 12 V も安定して維持されている。調査した AC アダプタのうち、電源容量が根本的に不足していた 1 台を除き、すべてで点滅が解消した。コイルやコンデンサの鳴きもなく正常動作した。

一般化:突入電流対策の定石
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NTC サーミスタを直列挿入する方法は、突入電流対策の定石として広く使われている。常温での高抵抗 → 通電後の自己加熱 → 抵抗低下 → 定常動作への影響最小化という動作が、ソフトスタートとして機能する。

選定のポイントは 2 つだ。まず定格電流で、定常点灯時の電流に耐えられることが前提となる。次に常温抵抗で、大きすぎると十分に自己加熱が進んでも電圧降下が残り輝度に影響する。

突入電流は昇圧回路に限らず、大きなコンデンサを持つ回路や誘導性負荷(モーター・コイル)を持つ電源系全般で生じる現象だ。大電流の急変は電磁ノイズとしても現れるため、電源の安定化と EMI 対策は根の部分でつながっている。

まとめ
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「MT3608 昇圧モジュールでスイッチ ON のたびに LED が点滅する」という症状の原因と対策を示した。

観点内容
直接原因突入電流で AC アダプタが瞬時電圧を維持できない
根本原因①スイッチが二次側にあり、常時昇圧出力状態でスイッチ ON
根本原因②MT3608 は UVLO を持っているが閾値が固定値 1.98 V
暫定対策NTC サーミスタ直列挿入で突入電流を制限
見落としがちな点提供された回路図が実機と一致していなかった

切り分けの手順として次を推奨する。

  • 複数台で同じ症状が出るか確認する(部品不良・実装不良を除外)
  • 複数の AC アダプタで比較し、アダプタ依存の症状かどうかを確認する
  • 回路図を信頼する前に、必ず実機をトレースして一致を確認する
  • 点滅が突入電流に起因すると判断したら、NTC サーミスタを直列挿入して確認する
  • 電源容量が根本的に不足する場合は NTC では解消しない。AC アダプタの交換が必要

「AC アダプタを変えたら直った」で済ませると、スイッチ位置という設計上の問題が残ったままになる。